-the ART journal-

 

///ニュース///

1999−06−09

 


ドイツの『寄席』、10周年を迎える

集客率低下に苦戦

テレビのチャンネル増加、変化する客の嗜好

FiftyFifty

10周年を迎えたFiftyFifty

【エアランゲン=6月9日】このほど、ドイツの演芸の一種「カバレット」を中心に上演する劇場、FiftyFifty(エアランゲン市、アンドレアス・ビューラー代表)が設立10周年を迎えた。チケット収入だけでは経営が難しい状況だが、これまでは企業の支援や寄付金などによって支えられてきた。一方、数年前からドイツではケーブルテレビのチャンネル増加などにより、観客の娯楽も変化。資金調達のみならず、上演内容そのものも厳しい条件にさらされている。

今年4月、同劇場は設立10周年を迎えた。座席数170席。劇場内は飲み物や軽食が楽しめるようになっている。日本でいえば、さしずめ「寄席」感覚だ。年間約180の公演が上演され。平均2万人が同劇場を訪れる。出し物の中心は「カバレット」。歌や楽器演奏などを交えた話芸の一種だが、政治や社会に対する辛らつな批判が込められるのが大きな特徴だ。

同劇場設立のきっかけは、エアランゲン在住のカバリスト、クラウス・カル・クラウス氏がカバレット専用の劇場を作ろうとしたのがはじまり。当時、ビューラー氏は出資者のひとりとして関わっており、そのまま、劇場のマネジメントを手掛けることになった。


カバレットのリハーサル。本番さながら。

 

89年のオープン以降、FiftyFiftyは根強いファンを獲得してきた。上演内容の良さと、劇場内に作り出された独自の雰囲気によるものだ。エアランゲンから約200Km離れたミュンヘンなど、遠方からの常連客も少なくない。「エアランゲン市の経済振興にも一役買っている」(ビューラー氏)かたちだ。

一方、経営的には苦戦している。毎年の赤字が平均12万DM(約780万円)。同劇場は「フェライン」と呼ばれるNPOだ。赤字の半分は地元企業による支援で、残りの赤字分は寄付金や劇場のレンタルなどで賄うことができた。しかし、集客率は減少傾向にある。「1回の公演集客数は平均すると100人。これ以下になると、本当に経営は厳しい」(同氏)。

経営状況が厳しいのは同劇場だけではない。3年ほど前から、独全国でFiftyFiftyのような小劇場が減少してきているという。ビューラー氏は、テレビの影響が大きな原因と指摘する。

独国では以前、テレビは3チャンネルしかなかった。しかし、ここ数年増加している。それに伴い、人の娯楽そのものがテレビに移行しつつある。これを受けて、無名のカバリストよりもテレビ出演するようなスターを人々は劇場に求める。加えて、番組で放映されるコメディは従来のカバレットより軽い内容が多く、それに慣れた客の嗜好そのものが変ってきた。

今後の方針は 「とにかく続ける」 ことだと同氏は言いきる。これまでのドイツの文化状況でいうと、アメリカのトレンドが流れ込んでくることが多い。近年、米国では小規模な劇場などが再び脚光を浴びており、この傾向が独国にも飛び火すれば、経営環境の好転につながるとビューラー氏は見ている。小劇場しか持ち得ない良さをどうアピールできるかが継続のカギになりそうだ。

翻って、かつて日本でもテレビの普及により、多くの寄席などが閉鎖に追い込まれた経緯がある。一方、数年前からは小劇場やライブ形式の演芸、漫才、コントなどに人気が出始めた。吉本興業にいたっては、若手の登龍門として小劇場を位置付けてきた。小規模の劇場とテレビのすみわけが確立してきている。(了)


劇場の壁にはスポンサーの名前を記した額が貼ってある。社会に貢献している証。

<ことば> カバレット【Kabarett】

■きき慣れない言葉だが、歌やダンスなどを取り入れたエンターティンメント「キャバレー」といえば理解しやすい。キャバレーがドイツ語圏で発達したものがカバレットだ。日本では独文学史や音楽史の観点から研究されている。

■ところで、独国内でカバレットブームがおきたのは1970年代。社会的、政治的批判をカバレットで行われていたような風潮があったという。東西ドイツが統一された90年にはブームが再来。「ゆえにカバリストが増えすぎた」(ビューラー氏)。

■テレビにもしばしば登場する。歴史を振り返るようなドキュメンタリー番組では、文化人のコメンテーターに並んでカバリストが名を連ねていることもある。カバレットは政治や社会に対する批判精神が旺盛な芸だ。それだけに、カバリストは時代を見る「独自の目を持った者」という位置付けがあるようだ。

■余談だが、「モモ」「はてしない物語」などで著名な作家、ミヒャエル・エンデ氏も一時ミュンヘンでカバレットのための歌や小劇を書いて糊口をしのいでいたことがある。(了)

 

 

 

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